2025/10/30
"Life Focus"を形にする取り組み OTと挑む外出企画― 心が動く瞬間を、再び ―
皆さま、こんにちは。
作業療法士(OT)のMです。
今回は、OTである私がご入居者と外出し、体験型展覧会へ出かけた際の様子と、そこに至るまでの経緯をご紹介いたします。
“Life Focus”の実践における外出は、通常PA(パーソナルアシスタント:ご入居者個別担当ケアスタッフ)が中心となって同行しますが、今回はリハビリの延長として、私がご案内する少し特別なケースとなりました。
ご案内したF様は、長年にわたり仏像鑑賞を趣味としてこられた方です。
かつては全国の寺院を訪ね歩かれていたそうですが、膝の痛みや歩行への不安から、このところは外出の機会が減っていました。
私自身も歴史が好きということもあり、東京・上野の森美術館で開催された展覧会『正倉院 THE SHOW ―感じる。いま、ここにある奇跡―』のお話をしたところ、
「もう一度、あの感覚を味わってみたい」
と瞳を輝かせてくださったのがきっかけでした。
そこから、半年ほどかけて外出に向けた準備が始まりました。
リハビリでは、膝の痛みの定期的なチェックと屋外歩行の練習を重ね、
「行きたい場所へ自分の足で行く」という目標を明確にすることで、訓練への意欲が自然と高まりました。
また、白内障の手術など、これまで消極的だった課題にも「せっかくだから前向きに」とのお気持ちが芽生え、ケア・ナーススタッフそして私たちOTが一丸となって準備を整えてまいりました。
当日訪れた展覧会は、1300年以上続く歴史を持つ「正倉院」の宝物を“感じる”“楽しむ”ことを目的とした体験型展覧会。
超高精細な3Dデジタルデータを大型スクリーンで映し出し、また宝物の技法をもとに復元された模造品や香り・音・照明などの演出によって、来場者は「展示を見る」だけでなく「展示空間を体験する」形で鑑賞しました。
展示室では、緊張感のある暗めの照明の中、足を止めて立体映像に見入るF様の姿が印象的でした。
「本当に、身体の内側まで響いてくるようです」―。
このひと言には、これまで大切にされてきた趣味の記憶と、あらたな経験を重ねられた喜びがにじんでいました。
これまでご入居者の方々をご案内するホームの外出企画では、膝の痛みなどから車椅子での参加が中心でした。
しかし今回は、F様が館内を全てご自身の足で歩かれ、最後までご自分のペースで鑑賞を楽しまれました。
その姿を間近で拝見し、お身体の状態を把握してサポートを整えてきたことが、安心して「自分の力で楽しむ」という充足感につながったのではないかと感じています。
今後もご入居者お一人おひとりが、心の奥にある「もう一度やってみたい」「あの感覚を、また味わいたい」といった想いをあきらめることなく、お身体の状況を丁寧に見守りながら、その方の力を最大限に引き出せるよう、OTとして、そしてチームの一員として支援を続けてまいります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。